獣医が教える|良いブリーダーの選び方【後編】

獣医が教える|良いブリーダーの選び方【前編】では良質なブリーダーの見つけ方を中心にお話ししました。

獣医が教える|良いブリーダーの探し方【前編】

30th 8月 2017

【後編】では良質なブリーダーの見極め方についてお話ししたいと思います!(※【前編】と同様に、イギリスの現状を踏まえてお話しさせていただきます)

様々な調査・聞き込みによって気になるブリーダーが見つかったら、次のステップは『ブリーダーに直接連絡を取ること!』と言いたいところですが。。。

ブリーダーに連絡をとる前にもうワンステップ!!

ブリーダーに連絡を取る前にしてもらいたいこと、それがAWF(動物愛護基金)RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)によるPuppy Contractという『子犬売買契約書』を読むこと。

Puppy Contract(子犬売買契約書)とは?

消費者が悪質なブリーダーから犬を購入してしまわないように、そしてそれに伴う問題を減らすためにAWFとRSPCAが共同で消費者のために制作した子犬売買に関する契約書です。

どんな内容が書いてあるの?

この契約書は『The Puppy Information Pack: 子犬の詳細情報パック』『Guidance note: 子犬情報パックに対するガイダンス』『Contract for the sale and purchase of a puppy: 契約書』という3つのパートに分かれています。

The Puppy Information Pack: 子犬の詳細情報パック

これはブリーダーが記入するパートで、44項目の質問事項にブリーダーが必要な情報を記入する形になっています。犬の生年月日、犬種、性別、親の血統書などありきたりな項目から、帝王切開で生まれたのか、犬の食事の種類・ブランド名、ブリーダーの元で子犬がどのような年齢・性別の人と関わりあっているのか、どのような動物とふれあっているのか、どのような音や経験に慣れ親しんでいるのか、親犬の健康診断・遺伝性疾患のスクリーン検査の有無などなど、子犬についてかなり細かいところまで答えるようになっているので、消費者が知りたい・知っておくべき情報がしっかりとカバーされています。

Guidance note: 子犬情報パックに対するガイダンス

ガイダンスパートでは、上記44項目がどうして大切なのか、どうして消費者が知るべきなのか、ブリーダーが記入した情報を消費者はどのように解釈すれば良いのかについて説明しています。Puppy Contractは全て英語で書かれているのですが、このパートを読むだけでもかなり勉強になるので、これから犬を飼いたい人みんなに一読してもらいたいパートです。

Contract for the sale and purchase of a puppy: 契約書

契約書パートでは、ブリーダーは『子犬の詳細情報パック』に記入した内容に偽りがないこと、2世代以下の近親交配はしていないこと、犬は8週齢以上であること、消費者に『子犬の詳細情報パック』を事前に渡し書類に目を通す十分な期間を与えたことなどを誓いますという署名を。そして、消費者は『子犬情報パック・ガイダンス』を理解していること、犬の世話をしっかりとすること、何らかの事情で犬を飼い続けることが困難になった場合はブリーダーに連絡をすることなどを誓いますという署名をする仕組みになっています。この契約書にはしっかりとした法的な効力もあります。

Puppy Contractはどこで手に入るの?

イギリス在住でなくても、Puppy Contractは有益な情報がたくさん組み込まれている契約書なので、是非多くの人に一読していもらいたいです。Puppy ContractはRSCPAの特設サイトからダウンロードが可能です。(英語のみ)

 

ブリーダーに連絡を取る

さて、ブリーディングについて予備知識を得た後は、いよいよブリーダーに連絡をとるステップです。まずはメールまたは電話で連絡を取って見ましょう。その時に絶対に押さえておきたいポイントが

  • 販売者が繁殖者なのか
  • 子犬は生まれた場所で育てられているのか
  • 犬舎の見学は可能か
  • 母犬(できれば父犬)に会うことは可能か
  • 親犬の健康診断書・遺伝性疾患のスクリーン検査(相当犬種の場合)の結果を見せてもらえるか
  • ワクチン・マイクロチップ・虫下しなどの予定・使用状況
  • 引渡しの時期
  • Puppy Contractを使用することは可能かどうか

 

以下の対応があった場合は赤信号!

  • 犬舎の見学はできない
  • 販売者=繁殖者でない:子犬は家族や友達が繁殖したと言う
  • 今住んでいる場所と子犬・子猫が生まれた場所は別:パピーミル出身の可能性大
  • 寄生虫などの予防はしていないし、する予定もない
  • 引渡し前に1回目のワクチンする予定なし
  • マイクロチップをする予定なし(イギリスでは違法です)
  • 8週齢以下での子犬の引き渡し
  • 言葉遣いや態度がものすごく乱暴・失礼

ここで注意してもらいたいのが、電話やメール対応はインターネット広告と同じく、なんとでも言えるし、いくらでも猫かぶりできるので、電話・メール対応が良い=良いブリーダーではありません

ただ、はっきりと言えることは電話・メール対応の時点で『おやおや。。。?!』と思った場合はそのブリーダーを避けることが懸命です。

 

ブリーダー宅へ見学に行く

ブリーダーとメールや電話で連絡をとり、問題がなければ次は直接見学に行くステップです。以下のポイントをしっかり押さえましょう。

施設・家の状態

清潔な環境でブリーディング・犬の世話をするのは基本中の基本。施設や家が汚かったり不衛生なのはもっての外!また、犬達が快適に過ごせるスペース・環境が整っているかもしっかりチェックしましょう。どのような環境で育ったかということは、犬の性格に大きな影響を与えます。

犬種

良質なブリーダーは自分の惚れ込んだ犬種を流行などに左右されず、その犬種の保存と犬質の向上を目指して繁殖をします。犬は犬種によって必要な環境が異なったり、性格が違ったり、なりやすい病気なども様々で、一つの犬種を極めるだけでも大変なこと。なので、良質なブリーダーは、基本的に一つの犬種しか扱っていません。

親犬と子犬が一緒にいるか

悪質なブリーダーの多くが早い段階で親犬と子犬を引き離すので、親犬と子犬が一緒にいる現場を見ることはとても大切です。また親犬の気質や、母犬とのスキンシップは子犬の性格に影響を与えることなので、親子の様子を観察することはとても大切なことです。

悪質なブリーダーは何らかの理由をつけて親犬を見せようとしないことが多いです。

子犬の健康状態

子犬を実際に自分の目で観察して健康状態を確認しましょう。

子犬の健康チェック

  • 目:充血や目やにがないか
  • 耳:ニオイや耳あか(特に色の濃い耳あか)はないか
  • 鼻:鼻は冷たくちょっと湿っているか。鼻の穴はしっかりと開いているか
  • 呼吸:呼吸をする時いびきのような音やゼイゼイといった音はしていないか。咳はしていないか
  • 皮膚:赤みや炎症、傷、汚れやニオイがないか
  • 口:極端な出っ歯(オーバーショット)や受け口(アンダーショット)がないか、歯は白く綺麗か
  • 毛並み:毛艶があり、ノミの糞などがないか
  • 足:フラフラせずしっかりと歩くことができるか
  • お尻:ウンチや下痢などで汚れていないか、お尻周りまで手入れが行き届いているか
  • 肋骨:肋骨が浮き出ていないか

健康な子犬は、目・耳・鼻・皮膚・口・毛並み全て綺麗で、体格もしっかりしています。子犬の健康状態で気になることがあればブリーダーへしっかりと質問しましょう。その回答が曖昧だったり、はぐらかそうとする人は要注意です。

親犬や他の犬の健康状態

良いブリーダーは子犬だけではなく、親犬・親犬以外の飼い犬全ての健康管理をしっかりと行なっています。なので、見学の際は他の犬の状態もしっかりと観察しましょう。

引渡し前の健康診断・ワクチン・マイクロチップの有無の確認

ワクチン証明書や獣医師からの健康診断書の有無も確認しましょう。見学の段階で子犬がまだ幼く、ワクチン接種や健康診断に行っていない場合は、引き渡し前にワクチン接種や獣医師による健康診断をしてくれるのか確認しておきましょう。そして、引き渡し前にそれらの書類の原本をしっかりと確認することを忘れないように。

必要書類・検査結果の確認

血統書がある場合、それはちゃんと正式なものなのか(イギリスの場合 Kennel Club certificate発行のもの)確認しましょう。また、ブリーダーは遺伝性疾患に関しても十分勉強しており、可能な場合は検査をしているのか、その検査結果はどうだったのかもしっかり質問しましょう。

良質なブリーダーは血統書や遺伝性疾患の検査結果などの書類をいつでも見せられるようにしっかりと準備・管理しています。

また、Puppy Contractのような書面での契約書の有無も確認し、もし書面での契約書が用意されていない場合はPuppy Contractを使うことができるか、またはそれに類似した書面を用意してもらえるか尋ねましょう。

リタイア犬の有無

良質なブリーダーはリタイア犬を最期まで大切にします。

質問への受け答え

犬種について、子犬の世話の仕方について色々と質問をし、ブリーダーの犬に対する情熱や知識について確認しましょう。ただ、ブリーダーの回答がしっかりとしたものかを判断するには、見学者もその犬種・犬についてある程度把握している必要があります。ブリーダー見学にむけての予習は必須です。

良質なブリーダーは見学者からの質問に基本丁寧に対応してくれます。(もちろん見学者がものすごく無礼な言動をとった場合は別)

ブリーダーからの質問の有無

良質なブリーダーにとって、生まれてきた子犬たちは我が子のようなもの。どんな人・家庭に引き取られていくのかは重大なこと。我が子をお嫁・お婿に出すようなものです。

良質なブリーダーは犬種と飼い主のミスマッチは悲劇を生むということを熟知しているので、見学者の家庭環境、家族構成、子供の年齢、同居ペットの有無、職業、犬の飼育経験、またどうしてこの犬種を飼いたいのか、などたくさんの質問をしてきます。時には購入希望者を断ることもあります。

また、引き渡し後も子犬の近況を教えて欲しいとお願いされたり、何かあったらブリーダーに連絡するように念を押されます。

まとめ

見学の際、以下のポイントが当てはまれば好感触

  • 施設が清潔
  • 幸せそうなリタイア犬がいる
  • 繁殖犬・リタイア犬を含む全ての動物がのびのびと生活しており健康管理がしっかりされている
  • 犬たちは毎日しっかり遊び、人とふれあい、犬ライフを満喫している
  • 親犬・歴代繁殖犬の生い立ちや思い出話で盛り上がる
  • 遺伝性疾患に関して充分勉強しており、最低二世代(子犬の父母、祖父母)に関して健康状態を把握している。そして、必要な検査結果や証明書を保管している
  • 獣医師による子犬の健康チェックをしている・する予定である
  • 親犬と子犬が一緒にいるところを見学させてくれる
  • 犬種の良い点だけでなく、難しい点や悪い点も説明してくれる
  • 質問にはしっかりと答えてくれる
  • 何らかの理由で飼えなくなった場合はブリーダーに返すよう要求される
  • 犬種に関して、犬の飼い方やしつけ方に関して知識が豊富
  • 購入を絶対に焦らせない
  • 2度目、3度目の見学も喜んで受け付けてくれる
  • 見学者に対して興味津々、質問をたくさんする(質問攻めする)
  • Puppy Contractまたはそれに類似した書面を用意している

 

以下の対応があった場合は赤信号!

  • 見学直前になってスーパーの駐車場や電車の駅などに待ち合わせ場所を変更を指定してくる
  • 家が汚い・不衛生
  • 狭い場所にぎゅうぎゅう詰めされている
  • 犬・猫が説明された年齢よりも極端に小さい・大きい
  • 親犬や他の犬が明らかに不健康そう
  • 人気の犬種を何種類も繁殖している
  • 購入者に対して興味がない:家族構成、家庭環境、犬・猫の飼育経験、職業などの質問をしない
  • 他にも購入したがっている人がいると言って決断をあせらせる
  • 動物病院での健康診断・ワクチン・虫下をしていると口頭で言うが、書類がない
  • ワクチン接種などの書類は後日郵送・メールで送るという
  • 書面上の契約書を拒否する、またはメール・郵送するという
  • 目やにを「寝起きだから」、薄毛を「他の子犬(猫)が引っ張った」、首や耳を掻いている「犬(猫)が体を掻くのは当たり前」、何かと「この犬種ではこれが普通」などと適当に答える
  • 質問をすると嫌そう・不機嫌・攻撃的になる
  • 血統書付きの犬だから、親がチャンピオンだから間違いなく素晴らしい犬になると、犬そのものよりも血統や肩書きばかりをアピールしてくる
  • 散歩に行っている、友達の家に行っているなどの理由をつけて親犬・猫を見せてくれない
  • 親犬・猫が育児に疲れて最近イライラしているからなどの理由をつけて子犬・猫が親犬・猫から引き離されている

 

悪質なブリーダーを見つけた場合どうすればいいの?

心が痛むかもしれませんがそのブリーダーからは犬・猫を購入しないで下さい。悪質ブリーダーから動物を購入するということは彼らの活動を助け、さらに何頭もの不幸な子犬・子猫を生むということ、負の連鎖に加担しているということを忘れないで。

もしもイギリスで悪質だと思うブリーダーを見つけた場合、RSPCAのヘルプラインへまず通報をしてできる限り詳しい説明をして下さい。

日本の場合は、地域の動物愛護センターや動物愛護団体に連絡するというのが、現段階でのベストな選択だと思われます。

 

最後に

ブリーダー選びは犬と飼い主の犬生・人生を左右する重要なステップです。また、良質なブリーダーから犬を受け入れるということは悪質なブリーダーを減らすことにつながります。

良質なブリーダーに出会えるまで、根気強く時間をかけて粘ってください。ここで費やす時間やお金は絶対に無駄になりません。

皆様に素敵な出会いがありますように♪

 




2 件のコメント

  • 大変勉強になります。日本にもそういった統一の契約書があれば、悪質なブリーダーさんから弱い子を買ってしまうということが減るのかなと思いました。
    Puppy Contractはイギリスでどの程度普及しているのでしょうか?
    動物愛護基金や英国王立動物虐待防止協会によって作られているということは、100%に近い割合で使用されているのでしょうか。お教えいただければと思います。

    • シホさん

      こんにちは。コメントありがとうございます。
      イギリスでもPuppy Contractやそれに相当するしっかりとした契約書は増えてきているのものの、まだまだ100%からは程遠い普及率です。
      残念ながら簡易な契約書や書類なしで子犬を売買してしまう飼い主さんやブリーダーがまだまだたくさん存在しています。
      シホさんのおっしゃる通り、このようにしっかりとした契約書を交わすことが当たり前になると悪質なブリーダーや無責任な飼い主さんを減らすことにつながる思うので、情報を発信したり呼びかけたりすることが大切だなと常に感じております。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    香川県高松市出身 地元香川の高校卒業後、ニュージーランドでの語学留学・大学進学準備コースを経てオーストラリア・メルボルン大学獣医学部に進学。現在イギリスで臨床獣医師として働いています。