【犬猫の毒物中毒に要注意】2017年イギリスの犬猫の毒物摂取・中毒事故で一番多かったのは?

犬猫が誤って毒性のある物、なんだか怪しい物を口にしてしまったという経験がある、またはヒヤッとした経験のある飼い主さんは意外と沢山いるのではないのでしょうか。

好奇心と食欲旺盛な子達であれば尚のこと、どんなに飼い主さんが注意していても、一瞬の隙をついて『パクっ!』、遊んでいるうちに『ゴクッ!』、知らないうちに『ペロリ!』なんてことも珍しくありません。

イギリスにはThe Veterinary Poisons Information Service (VPIS) (獣医毒物情報サービス)という、毒物情報機関があります。ここでは毒性学専門家が統計や研究を元に、毒物摂取・中毒に対する最適な処置・治療・予後などを24時間体制でアドバイスしてくれます。VPISは元々動物病院・獣医師の為の情報機関だったのですが、2017年4月より飼い主さん向けのAnimal Poison Lineというサービスも始めました。

さてこのVPIS、毎年獣医師や飼い主さんからの報告・申請を元に毒物に関する統計を発表しています。つい最近、2017年度のイギリスのペットにおける毒物統計が発表されたので、今日はその統計結果を少し紹介しますね。

2017年度 イギリスペットの中毒統計の傾向

相談件数・動物の種類

2017年度にイギリス国内で相談された中毒の件数は11,710件、動物の種類は14種にも及びました。問い合わせのあった動物の大半は犬(85%)、それに続き猫(14%)、ウサギ(1%)、そしてごく少数のフェレット、ヤギ、ブタ、ハリネズミ、ミンク、ラクダ科などでした。

例年より減少した中毒報告・問い合わせ

近年増加傾向にあった電子タバコによる中毒相談件数ですが、2017年度は予想に反し、減少方向という結果に。このことから、電子タバコ中毒のピークは過ぎた可能性があると考えられます。(2017年89件、2016年113件、2015年91件、2014年64件、2013年17件)

また、犬用ノミ予防薬に時々含まれるペルメトリンという成分による猫の中毒死が2017年度は0(ゼロ)だったという嬉しい驚きがありました。

例年より増加した中毒報告・問い合わせ

また2017年は8月に雨がたくさん降ったこともあり、キノコ類の報告・相談が例年より多く見られました。(2017年155件、2016年102件)(2017年8月56件、2016年8月6件)

犬の中毒問い合わせトップ10

2017年度犬の中毒問い合わせ件数のトップ10は以下の通り

  1. Ibuprofen(イブプロフェン):非ステロイド系消炎鎮痛剤(397件)
  2. Difenacoum(ジフェナクム):殺鼠剤・抗凝固剤(380件)
  3. Paracetamol(パラセタモール・アセトアミノフェン):解熱鎮痛剤(347件)
  4. Vitis vinifera(grapes, sultanas, raises, currants):ブドウ類(327件)
  5. Milk Chocolate(ミルクチョコレート)(267件)
  6. Xylitol(E967)(キシリトール)(253件)
  7. Bromadiolone(ブロマジオロン):殺鼠剤・抗凝固剤(221件)
  8. Chewing gum/bubble gum (チューインガム)(213件)
  9. Unknown agent(不明)(194件)
  10. Chocolate(ミルクチョコレート以外のチョコ)(148件)

非ステロイド系消炎鎮痛剤、殺鼠剤・抗凝固剤、チョコレートは毎年上位に入っってくる常連さんです。この3種類の誤飲・中毒は必ずと言っていいほど毎年遭遇します。

何でチューインガムの問い合わせがこんなに多いの!?と思った方もいるかと。。。これはキシリトールの関係だと思われます。キシリトールは甘味料として砂糖の代わりに使われることが多く、ガムにもよく含まれていますよね。このキシリトール、犬が食べてしまうと低血糖症や肝機能低下を起こす可能性があり最悪の場合命を落とすこともあるので注意が必要です。キシリトールの危険性は割と認知されていますが、犬がガムを食べちゃった後『もしかしてこのガムにキシリトール含まれてる?!?!』となり問い合わせをする飼い主さんが多いのだと思います。

注意
このトップ10はあくまでも問い合わせのあった件数のランキングです。『問い合わせ件数=中毒症状が出た件数』ではないのでご注意を! 

 

猫の中毒問い合わせトップ10

2017年度猫の中毒問い合わせ件数のトップ10は以下の通り

  1. Lilium species (ユリ科)( 90件)
  2. Unknown agent (不明)(75件)
  3. Benzalkonium chloride (塩化ベンザルコニウム):家庭用殺菌剤・消毒薬に使われること有(61件)
  4. Paracetamol (パラセタモール・アセトアミノフェン):解熱鎮痛剤(52件)
  5. Meloxicam (メロキシカム):非ステロイド系消炎鎮痛剤(47件)
  6. Imidacloprid (イミダクロプリド):ノミ・ダニ駆除剤(44件)
  7. Praziquantel (プラジカンテル):寄生虫駆除薬(43件)
  8. Moxidectin (モキシデクチン):フィラリア等の寄生虫駆除薬(37件)
  9. Ethylen glycol (エチレングリコール):凍結防止剤や車のラジエーターに使われること有(33件)
  10. Vitis vinifera (grapes, sultanas, raisins, currants):ブドウ類(31件)

ユリ科の植物、家庭用殺菌剤・消毒薬に含まれることもある塩化ベンザルコニウムは毎年上位に挙げられる深刻な問題です。問い合わせ件数はユリ科植物に比べると少ないですが、凍結防止剤に含まれるエチレングリコールの誤飲にも注意が必要です。致死率が高く、とても危険な薬品です。

5位−8位の薬品ですが、これらは全て猫用のお薬として頻繁に使われる内容物で、獣医師の指示に従って正しく使用すれば有益なお薬です。なので、今現在これらのお薬・薬品を使用している飼い主さん、心配しないでください。ただ、使用法や容量を間違えると身体に危害を与えることがあります。

例えば、首に垂らすタイプの寄生虫駆除薬によく含まれるイミダクロプリドとモキシデクチン、問い合わせで多いのが誤まって口に垂らしてしまった、耳に垂らしてしまった、ご飯に混ぜてしまったなどです。。。

ただ、個体によっては正しい使用法に従っていてもお薬が身体に合わないということはあるので、このお薬あげたらなんかダルそう。。。嘔吐する。。。などがあれば獣医師に相談して下さいね。

誤飲・中毒は適切な処置がされた場合、大半の子が元気に回復します。ですが、中には命を落としてしまうほど重度な中毒症に侵されることもあります。誤飲・中毒により亡くなった・安楽死になった件数は以下の通りです。

 

2017年度 死亡・安楽死になった件数

犬の死亡・安楽死件数

2017年度、毒物の誤飲・中毒が原因と疑われる犬の致死件数は56件ありました(うち安楽死28件)。

原因不明だけど何らかの毒物を摂取した疑いのあるケースが一番多く11件(うち安楽死6件)、ナメクジ駆除剤によく使われるメタアルデヒドによるものが7件(うち安楽死4件)、ムスカリンを含むキノコによるもの4件(うち1件安楽死)、皮膚ガン治療用クリームに含まれるフルオロウラシルによるものが3件(うち安楽死3件)というように続きます。

人間用の非ステロイド系消炎鎮痛剤の誤飲による死亡例も3件報告されています。(ナプロキセン2件、イブプロフェン1件)

また、カフェインが多く含まれる脂肪燃焼サプリや集中力アップサプリの誤飲・カフェイン中毒による死亡も2件報告されています。

猫の死亡・安楽死件数

2017年度、毒物の誤飲・中毒が原因と疑われる猫の致死件数は27件ありました(うち安楽死19件)。

一番多かったケースはエチレングリコールの8件(全て安楽死)。それに続きユリ科植物の誤飲4件(全て安楽死)、原因不明の毒物3件(全て安楽死)が報告されています。

 

 

ペットの誤飲・中毒、本当に不幸な偶然が重なり起きる場合や避けようがない場合もありますが、私たち人間が注意しておくことで避けられることが大半です。常にしっかりアンテナ張ってペットを見守って行くことが大切ですね。

 

もしもペットが異物・毒物を誤飲したらどうすればいいの?

自己処理をせず、速やかに動物病院、またはAnimal Poison Line(イギリスの場合)などの専門機関に連絡を!!

自己判断でお家で様子を見たり、吐かせようとしたり、自己処理は絶対にダメです!!!!!!

毒物の種類によっては一分一秒が本当に大切になってきます。『あの時もっと早くアドバイス受けてたら。。。病院に行っていたら。。。』という思いを誰にもしてほしくありません!!

毒性のあるものを確実に口にした場合は、最寄りの動物病院に連絡し、すぐに診察・処置をしてもらってください。

誤飲したかどうか定かでない場合、摂取したものが毒性のあるものなのか、獣医師による処置か必要どうかわからない場合は、動物病院や専門機関に連絡をしてアドバイスを仰ぎましょう。その結果、お家で経過観察しても大丈夫と言われれば安心ですし、診察すること勧められたらその指示に従って下さい。

適切なアドバイスが受けられるよう、動物病院・専門機関に電話をする前に以下の情報を整理・確認・準備しておきましょう!

  1. ペットの情報:ブリード、年齢、体重、性別、名前
  2. 摂取した物の情報:薬品や薬の名前・ブランド名など
  3. 摂取経路:経口、吸引など
  4. 摂取した量
  5. 摂取してからの時間
  6. 一度きりの事故なのか、以前にも同じことがあったのか

 

Animal Poison Line

前述しましたが、イギリスには飼い主のための24時間体制の毒物情報ラインというものがあります。獣医毒物情報サービスVPISによって運営されており、膨大な情報・統計を元に専門家がアドバイスしてくれるサービスです。有料(£30)ですが、知識豊富な専門家にアドバイスしてもらえる頼りになるサービスです。

イギリス在住のペットの飼い主さんはAnimal Poison Lineの電話番号を携帯に登録しておくこと、目に付きやすい所へ置いておくことをお勧めします!




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ABOUTこの記事をかいた人

香川県高松市出身 地元香川の高校卒業後、ニュージーランドでの語学留学・大学進学準備コースを経てオーストラリア・メルボルン大学獣医学部に進学。現在イギリスで臨床獣医師として働いています。