シリーズ最終回です。ここまで、一般診療から夜間救急、専門病院まで、イギリスの獣医費用の全体像をお伝えしてきました。
今回は、「では、実際にどう備えればいいの?」という疑問に答えるため、獣医費用への備え方や、日常で利用できる制度をまとめます。
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※この記事では、主にイギリス国内の制度について説明しています。日本のペット保険や動物病院の仕組みとは異なる点があります。
イギリスの獣医費用が高くなりやすい理由
イギリスの獣医費用が高くなりやすい背景には、人件費や設備費、薬剤費、夜間救急体制の維持、高度化した検査や治療など、さまざまな要因があります。
また、症状によっては、かかりつけ病院だけでなく、夜間病院や専門病院が診療に関わることも多く、それぞれの施設で診察料や検査費、処置費が発生するため、重い病気や救急疾患では、短期間で費用が大きくなることも珍しくありません。
だからこそ、元気なうちから備えておくことが大切です。
①ペット保険:費用の心配を減らす最大の手段
獣医費用への備えとして、まず検討したいのがペット保険です。
保険があることで、費用だけを理由に必要な検査や治療を諦めなければならない可能性を減らせます。それだけでも、ペットにとっても飼い主さんにとっても大きな違いです。
意外かもしれませんが、私の周囲でも、獣医療に関わる多くの人が自分のペットに保険をかけています。私も、愛猫ティドルにずっとペット保険をかけていました。
私は年に数回、日本やポーランドへ一時帰国することがあり、自分がすぐに対応できない状況が起こる可能性がありました。また、夜間入院や専門病院への紹介が必要になれば、私の勤務先以外の病院を利用することもあります。勤務先で診てもらう場合でも、スタッフ割引はあっても、治療がすべて無料になるわけではありません。
そうした現実的な理由から、獣医師であってもペット保険は重要だと考えていました。
イギリスのペット保険には、主に次の4種類があります。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| Accident Only | 怪我・事故のみ対象、病気は補償外 |
| Time-Limited | 1疾患につき12ヶ月または上限額まで補償。その後は除外 |
| Maximum Benefit | 疾患ごとに上限額を設定、期間制限なし |
| Lifetime | 毎年更新時に補償枠リセット。慢性疾患も継続カバー |
慢性疾患の長期管理を考えると、Lifetimeが一般的に最も手厚い選択肢です。ただし、補償上限、免責金額、自己負担割合などは商品によって異なります。ペット保険については別シリーズで詳しく紹介しますね。
②日常でできる費用を抑える工夫
予防医学が最大のコスト削減
ワクチン、寄生虫予防、歯磨き、体重管理などを、その子の年齢や生活環境に合わせて続けることは、病気の重症化リスクを減らしたり、予防する助けになります。
完全に病気を防げるわけではありませんが、日頃のケアと定期的なチェックが、大きな治療費を避けることにつながる場合もあります。
ナースクリニックの活用
イギリスの動物病院では、RVN(登録動物看護師)によるナースクリニックを設けていることがあります。体重チェック、術後の傷の確認、口腔ケア、シニアペットや肥満ペットの相談など、さまざまなケアを受けられます。
看護師さんとの会話の中で小さな変化に気づき、獣医師の診察や病気の早期発見につながることもあります。無料または獣医師の診察より低料金で利用できる場合が多いので、対応内容や料金を確認してみてください。
オンライン獣医相談
「これ、病院に行くべきかな?」という軽い疑問には、オンライン相談という選択肢もあり、最近ではペット保険にセットでついてくることも増えています。オンラインでできることには限りがあるので全てのケースには使えませんが、ちょっとした相談や自宅での観察ポイントや受診の緊急度を相談できる便利なサービスです。また、サービスによっては飼い主さんが承諾すればオンライン相談の記録がかかりつけ病院にメールで送られる仕組みになっており、実際に受診したときに症状の経緯がすでにまとまっていて便利なこともあります。
⚠️ ぐったりしている、呼吸が苦しそう、意識がおかしいなど急を要する症状では、オンライン相談を待たず、病院へ直接連絡してください。
オンライン薬局の活用
寄生虫予防薬や慢性疾患などの継続薬は、かかりつけの獣医師に処方箋を書いてもらい、オンライン薬局から購入すると安くなる場合があります。
ただし、処方箋発行料や送料がかかるため、少量の薬では必ずしも安くなるとは限りません。また、配送に時間がかかったり、荷物が届かない・紛失するといったトラブルを経験した飼い主さんの話を聞くこともあります。薬がなくなる直前ではなく、余裕を持って注文することが大切です。また、温度管理が必要な薬では、保管方法や配送中の管理、受け取り方法について事前に確認しておくことも大切です。
利用する際は、VMD(Veterinary Medicines Directorate)のオンライン販売業者登録に掲載されている正規の販売業者を選び、動物病院で購入する場合との総額や利便性を比較すことをお勧めします。
ヘルスプラン
多くの動物病院では、月額制のペットヘルスプランを提供しています。
月額£15〜30前後が一つの目安で、ワクチン、寄生虫予防、定期健診などが含まれます。病気やけがの治療費を補償するペット保険とは異なりますが、プランによっては診察料や一部の検査・処置の割引が付くこともあります。
私の実感としては、ワクチンと寄生虫予防だけでも、都度払いよりお得になるプランが多いです。加入前には、含まれる予防ケア、割引の対象、最低契約期間、解約条件などを確認しておきましょう。
③費用について、早めに病院へ相談する
獣医費用が心配な場合は、検査や治療を始める前に、率直に病院へ相談することをお勧めします。
「一度にすべての検査をするのは難しいです」「費用的に○○ポンド以上は難しいです」
などと伝えてもらえれば、獣医師が検査や治療に優先順位をつけたり、段階的なプランを提案したりできることがあります。
緊急性や病気の内容によっては選択肢が限られる場合もありますが、費用について何も伝えないまま治療を諦めたり、後から認識の違いが生じたりするよりも、早めに相談してもらった方が、現実的な方法を一緒に考えやすくなります。
④チャリティ系のサポート
経済的なサポートが必要な方向けの制度もいくつかあります。ただし、利用条件は地域や団体によって異なり、すべての飼い主さんや治療が対象になるわけではありません。
PDSA・Blue Cross
特定の給付金を受給していて、かつ対象施設の診療エリア内に住んでいる方は、PDSAやBlue Crossの動物病院で無料または低額の診療を受けられる可能性があります。
対象地域や給付金、登録できるペット数などに条件があるため、各団体の公式サイトで確認してください。
Blue Cross Veterinary Care Fund
私の患者さんも何度かお世話になったことがあるBlue Cross Veterinary Care Fund。
飼い主さんが自分で申請するのではなく、かかりつけの動物病院がその患者のためにBlue Crossへ治療費助成を申請します。承認されれば最大£300(約¥64,800)がBlue Crossから動物病院に直接支払われます。
対象は回復見込みのある緊急・一回限りの治療で、予防医療や専門診療(化学療法・脊髄手術・専門医の診察など)は対象外です。
費用面で本当に行き詰まった場合には、かかりつけの動物病院へ「Blue Cross Veterinary Care Fundは使えますか?」と相談する、という選択肢もあります。ただ、チャリティーの資金が本当に必要な方のもとに届くよう、飼い主さんも病院側も、あくまで最終手段として認識しておくべき制度だと思っています。
RSPCAの支援
地域によっては、地元のRSPCA支部や病院・クリニックが、低所得の飼い主さんを対象に、低額診療や治療費支援、バウチャー制度などを提供していることがあります。ただし、支援内容は全国一律ではなく、利用条件や対象となる治療は地域によって異なるため、最寄りのRSPCA支部や施設への確認が必要です。
以前は、野良動物や迷子の動物の緊急処置費用を動物病院が申請できるIET制度もあり、私も何度か利用しましたが、現在は終了しています。
⑤CMAによる価格透明性改革(今後)
CMA改革により、動物病院の価格・所有関係などの情報をRCVS「Find a Vet」で比較しやすくする仕組みが段階的に整備される予定です。
今後、引っ越し後にかかりつけ病院を探すときや、複数の病院を比較するときに、費用やサービス内容をこれまでより確認しやすくなることが期待されています。
シリーズを振り返って
全5回にわたってお届けしてきたイギリスの獣医費用シリーズ、いかがでしたでしょうか。
「イギリスの動物病院は高い」という印象は、決して間違いではありません。
ただ、なぜ費用が高くなりやすいのか、どのようなときに夜間病院や専門病院が関わるのか、そして、どのような備えや支援制度があるのかを知っておくことで、いざというときの不安を少し減らすことができます。
保険、予防、ヘルスプラン、オンライン薬局、チャリティー支援などを上手に活用し、費用のことで困ったときには、できるだけ早い段階でかかりつけの動物病院へ相談してください。
大切なペットのために、このシリーズの情報が少しでもお役に立てればうれしいです!


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