夜間・救急診療の費用は、通常診療とはまったく別の話になります。「深夜に様子がおかしい」「休日に急変した」。。。そんなとき、事前に仕組みと費用感を知っておくだけで、いざというときの判断がずいぶん変わります。
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イギリスの夜間体制:どう変わってきたか
RCVS(英国王立獣医師会)の規定により、すべての動物病院は24時間の緊急対応を確保する義務があります。ただし「一つの病院がすべてを自前で担わなければならない」わけではありません。
かつては、日中に働いている獣医師がオンコールで夜間対応をする病院も多くありました。私が最初に就職した病院もそのタイプで、入院患者がいれば症状に応じて夜間にもチェックに入る体制をとっていました。ただ、24時間継続的にモニタリングするというより、必要に応じて対応するスタイルでした。
現在は、夜間診療を専門プロバイダーに委託する病院が主流になっています。私自身も、最初の職場以外ではすべて委託型の病院で働いてきました。診察時間が終わるとスタッフがいなくなり、夜間はかかりつけ病院の番号に電話すると自動的に夜間病院へ転送されるか、夜間連絡先がアナウンスされる仕組みです。
イギリス最大の夜間救急専門プロバイダーはVets Nowで、全国1,700以上のかかりつけ病院と提携しています。MiNightVetなどの別プロバイダーもあります。
そして、Vets Nowには大きく2つの形態があります。ひとつは独立した夜間救急専用の施設(緊急病院)。もうひとつは、提携している日中の動物病院がそのまま夜間に Vets Now の拠点になる「Partner Practice Hub」と呼ばれるモデルで、日中のかかりつけ病院が閉まった後、同じ建物に Vets Now のスタッフが入って夜間診療を行います。
飼い主さんからすると「いつも行っている病院の住所に夜間も行ける」という安心感があり、ペットにとっても見慣れた場所という点でメリットがあります。また、かかりつけ病院が Partner Practice Hub であれば、入院が必要なときも「日中はかかりつけ病院、夜間は夜間病院」という移送の手間が省けます。この記事でも後述するように、イギリスでは入院中のペットを飼い主が夜間病院まで送迎しなければならないケースが多く、その負担を考えると、かかりつけ病院がそのまま夜間拠点になるのはかなり大きなメリットです。ただし、建物は同じでも運営する会社は別で、費用も別途請求になります。
夜間はかかりつけ医の提携病院に行くのが基本
夜間診療はイギリス全体として「どの病院も何らかの形で夜間対応を担保している」という仕組みになっているため、基本的にはかかりつけ病院が契約している夜間プロバイダーに行くことが前提です。
夜間病院に電話をすると、どこの動物病院にかかっているかを確認され、その病院と提携しているかどうかがチェックされます。もし提携していない夜間病院にかけてしまった場合、「あなたのかかりつけ病院が契約している夜間病院に連絡してください」と案内されるのが一般的です。
例外となるのは、旅行や帰省中でかかりつけ病院の提携エリアから離れているとき、交通の事情でどうしても提携病院まで行けないとき、引っ越したばかりでまだかかりつけ医が決まっていないときなど、相当の事情がある場合です。そういった状況でなければ、かかりつけ医の提携している夜間病院に行くことになります。
夜間に電話すると、自然にトリアージされます
夜間の連絡先に電話すると、症状を聞きながら自然とトリアージが行われます。明らかに緊急と判断されれば、必要な情報だけ手短に確認されてすぐに来院するよう指示されます。緊急度が低いと判断された場合は、来院するかどうかの選択肢を提示されたり、朝まで様子を見るためのアドバイスをもらえたりします。この電話相談自体は無料です。
電話越しに状況を伝えることで、飼い主さんひとりで「行くべきか、待つべきか」を判断しなくてよくなるのは心強いことです。ただし、電話だけでは伝わりきらないこともありますし、最終的に受診するかどうかを決めるのは飼い主さんです。電話で「様子見で大丈夫」と言われたとしても、それでも心配なときは受診することをお勧めします。
夜間診察料の目安
夜間・救急病院でまず発生するのが、時間外診察料です。これは通常の診察料とはまったく別に請求されます。
| 診察料の区分 | 費用の目安 |
|---|---|
| 全国平均 | £275前後 |
| 一般的な範囲 | £200〜350以上 |
| 南東部(最も高い地域) | £330前後 |
| 南西部(比較的安い地域) | £230前後 |
| チャリティ系病院 | £80前後(利用条件あり) |
イギリス独特:時間帯で料金が変わる
イギリスの夜間診療には「Anti-social hours pricing(時間外料金)」という考え方があり、夜が深くなるほど料金が上がる仕組みを採用している病院もあります。
- 夕方〜夜(比較的早い時間):£130〜290前後
- 深夜(0時以降):£200〜350以上
深夜になると、同じ診察でも夕方より50〜100%高くなることもあります。
これはあくまで診察料のみの金額です。ここから血液検査・処置・薬・入院が加わります。
夜間入院の費用
夜間病院での入院費用は、患者の状態によって大きく変わります。
| 入院の種類 | 1泊あたりの目安 |
|---|---|
| 安定した症例(点滴・鎮痛・基本的なモニタリング) | £250〜500 |
| 重症・集中治療(頻回の検査・酸素管理・持続投与) | £500〜700以上 |
| 隔離が必要な感染症(パルボ等のBarrier nursing) | £700以上 |
第2回の記事でも触れましたが、イギリスでは入院患者が夜間は夜間病院で過ごし、朝にかかりつけ病院に戻るという流れを繰り返します。かかりつけ病院と夜間病院の費用が別々に請求されることになるため、複数日の入院が必要な場合は費用が大きく嵩みます。
夜間の緊急手術費用
症状によっては夜間にそのまま手術が必要になることも。参考として、主な緊急手術の費用目安をご紹介します。
| 緊急手術の種類 | 費用の目安 |
|---|---|
| 異物誤飲(開腹手術) | £2,000〜4,500以上 |
| 子宮蓄膿症(Pyometra) | £1,200〜3,000以上 |
| 胃拡張捻転(GDV/Bloat) | £4,000〜6,000以上 |
| 帝王切開(緊急) | £2,000〜3,500 |
| 重症外傷(CT含む) | £3,000前後〜 |
| 中毒(軽〜中等症) | £300〜500前後 |
なぜ夜間はこんなに高いのか
夜間診療の費用が高い理由は主に以下の3点です。
まず24時間体制の人件費。夜間・休日に対応できるスタッフを確保するためのコストは相当なものになります。次に専用施設の維持費。夜間に対応できる設備・機材を常時稼働状態に保つ費用がかかります。そして来院数の少なさ。夜間は日中に比べて獣医師一人あたりが診る件数が少ないことが多く、施設やスタッフのコストが1件あたりにのしかかってきます。ただし、夜間に来院するケースは緊急・重症であることが多く、対応の密度は決して低くありません。
夜間連絡先を今のうちに確認しておこう
夜間に慌てないために、かかりつけ病院の時間外連絡先を今のうちに確認しておくことをお勧めします。多くの病院は診察券、ウェブサイト、または留守番電話のアナウンスで夜間の連絡先を案内しています。
あわせて、かかりつけ病院がどのタイプの夜間診療体制をとっているかも確認しておくと安心です。Partner Practice Hubなのか、別の場所にある夜間病院に委託しているのか。。。後者の場合、夜間病院までの距離や移動手段も頭に入れておく必要があります。
引っ越し直後や病院を変えたばかりのときは特に要確認です。新しいかかりつけ病院を探す際も、夜間診療のタイプや夜間病院の場所を選択基準のひとつに加えておくことをお勧めします。
CMAは夜間診療にも目を向けている
📋 CMA(競争市場庁/Competition and Markets Authority) とはイギリスの公的機関で、消費者保護と市場の公正な競争を監視する役割を持っています。近年、獣医費用の急騰が問題視されたことを受けてCMAが調査に乗り出しました。CMAの調査結果と2026年からの改革については、番外編【獣医費用】値段の「見える化」CMAって何?で詳しく紹介しています。
そのCMAの改革は、夜間診療の分野にも及んでいます。CMAは、病院がOOHプロバイダーとの契約に縛られて容易に切り替えられない問題(競争の阻害)を指摘しており、2026年の改革では過度な契約縛りや解約料への規制も盛り込まれました。夜間診療の費用競争が促進されることで、費用が落ち着いてほしいものです。
費用の心構えとして
夜間救急にかかる場合、「まず診察だけで£200〜350以上、そこから処置や入院が加わる」という感覚を持っておくと、現実の請求額に少し備えることができると思います。
ペット保険が夜間診療をカバーするかどうかは保険によって異なるので、特約や条件を事前に確認しておくことをお勧めします。
次回は「専門病院・二次診療の費用と使い方」をお届けします♪


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