ブログ再開後の最初のシリーズは、イギリスの動物病院費用についてです。「実際いくらかかるの?」という疑問に、現役獣医師の目線でお答えします。全5回+番外編でお届けします。
- 第1回:一般診察・ワクチン・予防薬 ← 今回
- 第2回:病気になったら:検査・手術・入院
- 第3回:夜間・緊急病院(Out of Hours)
- 第4回:専門病院・二次診療
- 第5回:費用を賢く抑えるために:まとめ&備え方
- 番外編:CMAって何?費用の「見える化」が始まります
このブログを書き始めた2016年に、「イギリスの動物病院、実際いくらかかるの?」という記事を書きました(旧記事はこちら)。あれから10年。費用の相場はかなり様変わりしました。当時の費用と比較しながら改めてご紹介します。
なお今回の記事は、いわゆる一次診療(かかりつけの動物病院)の費用についてです。専門医への紹介(二次診療)の費用については、シリーズ後半で別途取り上げます。
費用の相場:2016年 vs 2026年
下の表はあくまでも目安です。地域・病院・診察内容によって実際の費用は大きく異なります。正確な料金は各動物病院にお問い合わせください。
2016年の数値は当時の私自身の経験をもとにしたもの、2026年の数値は私自身の現場感覚に加え、CMA改革により各動物病院が公開義務を負うようになった料金表をもとにした参考値です。
💴 日本円換算の目安:£1 ≈ ¥213(2026年5月時点) 為替レートは日々変動します。あくまでも2026年5月現在の参考値としてご覧ください。 例:診察料£62 ≈ 約1万3,200円 ワクチン£88 ≈ 約1万8,700円
なお、2016年に私がこのブログに最初の記事を書いた頃は£1 ≈ ¥130前後でした。この10年でポンド建ての費用が上がっただけでなく、円安の影響も重なり、日本円に換算したときの金額感はさらに大きく変わっています。
<診察・ケア>
| 項目 | 2016年頃 | 2026年現在 |
|---|---|---|
| 初診料(犬・猫) | £20〜40 | £50〜80(平均約£62) |
| 初診料(ウサギなど小動物) | £15〜30 | £40〜64 |
| 再診料(犬・猫) | £20〜35 | 初診より数ポンド程度安め |
| ナースクリニック(後述) | — | £20〜40(平均約£35) |
<予防>
| 項目 | 2016年頃 | 2026年現在 |
|---|---|---|
| ワクチン:犬(年次ブースター) | £25〜50 | £60〜90 |
| ワクチン:犬(子犬初回コース) | £25〜50 | £85〜120 |
| ワクチン:猫(年次ブースター) | £25〜50 | £60〜90 |
| ワクチン:猫(子猫初回コース) | £25〜50 | £85〜120 |
| ワクチン:ウサギ(年次) | £25〜50 | £60〜85 |
| マイクロチップ | £10〜30 | £25〜45 |
<健康診断>
| 項目 | 2016年頃 | 2026年現在 |
|---|---|---|
| 血液検査(健康診断目的) | £70〜100 | £90〜150 |
<手術:犬>
| 項目 | 2016年頃 | 2026年現在(参考) |
|---|---|---|
| 去勢(雄犬) | — | £250〜500 |
| 避妊(雌犬) | — | £350〜600 |
| 避妊(腹腔鏡手術) | — | £600〜£1,000以上 |
<手術:猫>
| 項目 | 2016年頃 | 2026年現在(参考) |
|---|---|---|
| 去勢(雄猫) | — | £70〜150 |
| 避妊(雌猫) | — | £100〜250 |
避妊去勢などの手術は特に地域差・体重差が大きい項目です。ロンドン中心部・大手グループ・設備の整った病院では料金が高めになる傾向があります。一方で、チャリティ系のクリニックではかなり抑えた料金が設定されていることもあります。上記の表はあくまで「一般的な一次診療で比較的よく見かける価格帯」として参考にしてください。
CMAの調査では、2016〜2023年の間に獣医サービスの平均価格が50%以上上昇しています。「ずいぶん高くなったな」と現場にいる私自身も感じています。
📋 CMA(競争市場庁/Competition and Markets Authority) とはイギリスの公的機関で、消費者保護と市場の公正な競争を監視する役割を持っています。近年、獣医費用の急騰が問題視されたことを受けてCMAが調査に乗り出しました。CMAの調査結果と2026年からの改革については近日公開予定の【番外編】でご紹介します。
ナースクリニック(Nurse Clinic)って何?
イギリスでは、有資格の動物看護師(Registered Veterinary Nurse/RVN)が主導する診察・ケアサービス「ナースクリニック」が広く普及しています。獣医師の診察ほどの費用がかからず、日常的なケアや経過観察に大変便利です。
主なサービス内容は爪切り・肛門腺絞り・抜糸・傷口確認・術後の経過観察・体重管理・ワクチン2回目の接種など。「獣医師に診てもらうほどではないけど、専門家に見てほしい」というときに活躍します。
費用は獣医師の診察(平均£62)に比べて概ね半額以下の平均£35前後。イギリスの動物看護師の資格制度や働き方については、またブログで詳しくご紹介しますね♪
ワクチン料金には健康診断が含まれています
ワクチン接種料金には通常、鼻から尻尾まで一通りチェックする健康診断(Nose-to-tail examination)が含まれています。専用の健康診断として別途予約しなくても、ワクチンのタイミングでしっかり見てもらえるのは嬉しいところです。
ただ、ここで一つ大切なことを!
「最近耳がかゆそう」「たまに咳をしている」「お腹の調子が少し気になる」そういった心配事がある場合は、予約の際にその旨を伝えてください。
ワクチン枠は通常15〜20分ほどで設定されていますが、複数の症状を診察するには時間が足りないことがあります。状況によっては2枠分の予約が必要になったり(別途料金が発生する場合もあります)、ワクチン接種を延期して先に診察をお勧めすることもあります。
ワクチン時の健康診断は、あくまで「飼い主さんがまだ気づいていない小さな変化を早期に発見する機会」として機能しています。すでに気になる点がある場合は、「ワクチンの時に一緒に相談できますか?」「それとも先に別で受診した方がいいですか?」と予約時に一言確認していただくのがスムーズです。
避妊・去勢手術:日本との大きな違い
日本でペットを飼っていた方に特にお伝えしたいことがあります。
イギリスで避妊・去勢手術を受ける場合、術前の血液検査や術中の点滴(輸液)は基本的に料金に含まれていません。上の表の金額はあくまで手術そのものの費用です。
術前血液検査や術中点滴(輸液)は年齢や健康状態を踏まえて獣医師と飼い主が話し合い、必要性や利点を確認した上で追加するかどうかを決めるというスタイルが一般的です。術前血液検査は£100前後、輸液も£100前後が追加料金でかかることも多く、両方行うと手術費用にさらに£150〜250ほどプラスになることも珍しくありません。費用面から追加しない飼い主さんも多い印象です。また、術後数日分の痛み止めやシンプルなバスターカラー(エリザベスカラー)は料金に含まれている病院が多いですが、これらが別途追加になる病院もあります。手術を予約する際には「何が含まれていて、何がオプションなのか」を事前に確認しておくことをお勧めします。
犬の手術費用は性別・体重・地域によって大きく変動します。ロンドンが全国で最も高く、北部やウェールズが比較的安い傾向があります。
マイクロチップは今や「義務」です
2016年当時もマイクロチップは普及していましたが、現在は法律で義務付けられています。犬は2016年から、猫はイングランドで2024年6月から義務化されました。費用は£25〜45ほどが目安です。
ただし、犬と猫では状況が少し異なります。犬の場合は、ブリーダーが8週齢になる前にマイクロチップを装着することが法律で義務付けられています。つまり子犬を迎える時点ですでにチップが入っているのが基本で、新しい飼い主がわざわざ病院に連れて行く必要はありません(データベース上の登録情報を新しい飼い主名義に更新する手続きは必要です)。
一方、猫はブリーダーへの装着義務がありません。保護施設から猫を迎えた場合は基本的にマイクロチップ済みですが、ブリーダー・知人からの譲渡などその他のルートで迎えた場合はチップなしで渡されることが多く、20週齢になるまでに飼い主が装着の手続きをとる必要があります。
なお、多くの動物病院が提供しているヘルスプラン(Pet Health Club等のサブスクリプション)にはマイクロチップ装着が含まれていることも多く、その場合は別途費用が発生しないこともあります。
「無料で診てもらえる場所」も存在します
イギリスの動物医療は日本と同様、自由診療・全額自己負担が基本です。ただし、低所得の家庭はPDSA・RSPCA・Blue Crossなどのチャリティー系病院で、無料または低価格での診察が受けられる場合があります(提供できる治療・検査には限りがあります)。
NHS(国民保健サービス)のおかげで人間の医療はほぼ無料のイギリスでは、動物医療費の高さに驚くオーナーさんも少なくありません。
2026年から、費用が「見える化」されます
CMAの改革により、2026年から動物病院の基本料金のウェブサイト掲載が義務化されます。詳しくは近日公開予定の【番外編】でご紹介します。
次回は「イギリスで病気になったら?検査・手術・入院費用のリアル」をお届けします。


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